初夏の昆虫ウォッチングには、あまり知られていない穴場があります。
それは‥ ハイキングコースなどによく設置されている「柵(さく)=フェンス」です。
ここでは、フェンス・ウォッチングの楽しみをご紹介します。
■なぜ、フェンスに昆虫が集まるのか
ところで、なぜ、昆虫たちはフェンスに集まってくるのでしょうか。
たぶん、きっちりした研究はされていないと思いますが、私なりに考えてみました。
理由その1 樹の幹とまちがえている
フェンスの材質にもよりますが、どうやら昆虫たちは樹木の幹と勘違いしてフェンスに登り、行き止まりになってしまってウロウロしていることが多いようです。
理由その2 昆虫が昆虫を呼ぶ
樹の幹と間違ってウロウロしているのはガの幼虫などが多いのですが、それはすなわち、フェンスという場所が、肉食昆虫にとって獲物がたくさん集まってくいる絶好の狩場だということ。昆虫が昆虫を呼び、フェンスは弱肉強食の舞台となっているのです。
理由その3 もともと昆虫が多い場所
フェンスが設けられてあるのは、道と林の間、道と池の間などで、こういった場所は植物の種類も豊かで、もともと昆虫が最も豊富に見られる場所です。実際にはたくさんいる昆虫も木や草にまぎれたり、陰に隠れていたりして見つけにくいものですが、フェンスがあると昆虫が集まってきているので、労せずしてたくさんの昆虫を観察することができるのです。
■フェンス・ウォッチングのコツ
★場所を選ぶ
まず、何といっても一番大切なのは場所。
広葉樹の多い雑木林の縁で、近くに池か川があり、樹木がよく茂っていて草花も多く、日向と日陰が混在していて適度に明るい、といった場所ならカンペキです。
★タイミングを選ぶ
タイミングを選ぶということは、日照や気温、湿度などの条件を考えるということです。どんな時間帯なら活動しやすいか‥。昆虫の身になってイメージしてください。
具体的には、
・たくさん雨が降った日の翌日
・暖かくて風の弱い朝
などが特にねらい目です。
★材質と形を選ぶ
フェンスの材質は木そのもの、もしくは木に近いものがよく、金属のようなツルツルした無機質のものはダメです。
形も大事で、平たいものより、丸みのあるものの方がベターです。
★裏側もチェック
フェンスの裏側や下側もよくチェックしましょう。掘り出し物はえてしてそんなところに潜んでいます。
★「いる」と信じて探す
精神論みたいですが、普段の探し物と同じで、「絶対いる」と思って探すことはとても大切。
どんなに観察力がある人でも、実際にいる昆虫の半分以上は見逃しているはずですので、とにかく根気よくしつこく探しましょう。
こんな道路わきのフェンスでも驚くほどたくさんの昆虫が見られることがある
それでは、フェンス・ウォッチングで観察できる昆虫たちをピックアップしてご紹介します。
■どんな昆虫に会えるのか その1 こどもたち
フェンスは幼虫たちの宝庫。こんなふうに何種類ものイモムシ、ケムシ、シャクトリムシが一度に見つかることも日常茶飯。
左:ウラナミアカシジミ(シジミチョウの仲間)の幼虫。
右:ニトベミノガのミノムシ。
左:ヤブキリ(キリギリスの仲間)の幼虫。
右:ヨコバイの仲間の幼虫。
どちらもジャンプの名手。見つけたと思った瞬間に視界から消え去ってしまうことも。
■どんな昆虫に会えるのか その2 ハンターたち
獲物を探してフェンスに集まってくる肉食昆虫(+クモ)たち。
左:クロカタビロオサムシ
右:ヨツボシヒラタシデムシ
どちかも本来の狩場は樹上。
アリの仲間も多い。‥でも、だまされないで!よく見てください!
左:クロオオアリ
右:アリに擬態しているクモ、アリグモ。姿が似ているだけでなく、前脚を触角のように頭の前にかざし、まるでアリのようにふるまいます。
ハンティングの現場
左:小昆虫を捕らえたアオオビハエトリ。青い金属光沢が美しい。
右:キシタバ(ガの仲間)の幼虫を狩るアミメアリの群れ。
■どんな昆虫に会えるのか その3 カワリダネ&掘り出し物
どんなのが見つかるかわからない、という意外性がフェンス・ウォッチングの大きな魅力。
左:耳(のようなもの)の付いた昆虫、その名もミミズク。
右:なんで前脚だけこんなに長いのか?アシナガオニゾウムシ。
左:こんなかっこうの甲虫の取り扱いは慎重に!ちょっとでも油断すると死んだフリして地面に落下。そのまま二度と見つかりません。これはシロコブゾウムシ。
右:体長5センチ超のミヤマカミキリ。あんまり簡単に見つかるのでありがたみがないけど‥。
いかがでしたでしょうか?
ぜひ、みなさんの昆虫観察のレパートリーに、フェンス・ウォッチングをくわえてみてください。
(初出 「むし探検メール No.3」)
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