昆虫採集・昆虫観察のガイド

むし探検ガイド

今年生まれ? 去年生まれ?

 春といえば、てふてふの季節。
 野や山を飛び交う蝶を見かけると、昆虫シーズンの始まりを実感しますね。

 ところで、この季節に活動している蝶には、去年に羽化して冬越ししたベテラン組と、この春に羽化したばかりのニューフェイスが混ざっていることをご存知でしょうか?

 今回は、「去年生まれ組み」「今年生まれ組み」に分けて、春を彩る蝶たちをご紹介します。


■去年生まれ組
 こちらは、長い冬を無事にのりきった越冬組。よく見ると、はねに苦労のあとが刻まれていたりします。
 タテハチョウの仲間が主流ですが、シジミチョウやシロチョウにも去年生まれ組がいます。
 
テングチョウ
 これはテングチョウ(テングチョウ科)。頭の先っちょ(下唇ひげ)がテングの鼻のように伸びています。個体数が多く、ハイキングコースの道ばたなどでよく見かけます。

ヒオドシチョウキタテハ
 左:展望台で見つけたヒオドシチョウ(タテハチョウ科)。雑木林の落葉の上や、尾根筋などで見られます。この個体は、かなり翅がボロくなっています。
 右:あざやかなオレンジのキタテハ(タテハチョウ科)。よく見ると、翅に小さなブルーの紋があってなかなか凝ったデザイン。畑や原っぱでよく日向ぼっこをしています。

ルリタテハ
 得意げに触角を立てるルリタテハ(タテハチョウ科)。雑木林の周辺で見られます。地表にとまって占有行動をとっていることが多く、ほかのチョウが飛んでくると、はげしく追い払い、またもとの場所に戻ってきます。

ムラサキシジミウラギンシジミ
 左:カシの木のまわりでよく見られるムラサキシジミ(シジミチョウ科)。翅の裏面は地味だけど、表面には鮮やかな紫色の紋があります。
 右:人家周辺でも見かけることがあるウラギンシジミ(ウラギンシジミチョウ科)。写真はメスで翅の表にブルーの紋を持つ。この紋が朱色だったらオス。


キチョウ
 交尾するキチョウ(シロチョウ科)。春先に野山を飛ぶ黄色いチョウはたいていこの種類。


■今年生まれ組
 こちらは、初々しい春生まれの蝶たち。
 特に、左列は、一年の中で今の季節だけにしか見られない、正真正銘の「春蝶」たち。春だけに咲く花々と同様に、スプリング・エフェメラル(春のはかない命)という美しい名で呼ばれます。

ツマキチョウモンシロチョウ
 左:春限定のツマキチョウ(シロチョウ科)。林縁や渓流沿いの開けた場所で見られます。
 右:おなじみのモンシロチョウ(シロチョウ科)。「ちょうちょ、ちょうちょ‥」と唱歌に歌われているのはたぶんこの種類ですね。でも、「菜の葉にとま」ることはあっても、サクラに飛来するのはあまり見かけません。

コツバメルリシジミ
 左:シジミチョウの中でも特に小さいコツバメは、春限定。雑木林の周縁で見られます。すばやく飛ぶので、動体視力がよくないと見失ってしまいます。
 右:交尾中のルリシジミ(シジミチョウ科)。野山のあちらこちらを元気に飛び交っています。

ギフチョウキアゲハ
 左:春の女神とも呼ばれるギフチョウ(アゲハチョウ科)。もちろん春限定。この季節、ニュース番組の「季節の話題」コーナーによく登場します。
 右:占有行動をとるキアゲハ(アゲハチョウ科)。山の稜線の開けた場所でよく見られます。普通種なので見過ごしがちですが、このデザインはなかなか秀逸。

ミヤマセセリ
 春限定のセセリチョウ、ミヤマセセリ。雑木林の林床近くを飛びます。この辺にとまったはずなのに‥と思って探しても、落葉にまぎれて見つけられないこともしばしば。「深山」の名に反し、低山地でよく見られます。


 今回は、春の蝶を、去年生まれ、今年生まれに分けてご紹介しました。
 こうして並べてみると、秋生まれは艶やか、春生まれは清楚な傾向があるようです。
 皆さんも、今度、どこかで蝶を見かけたら、去年生まれか今年生まれかを当ててみてください。


 (初出 「むし探検メール No.13」)