カラスノエンドウという植物をご存知ですか?
本州以南に見られる雑草で、春から初夏にかけて赤紫色のかわいい花を咲かせます。実は、この植物は、虫たちの壮絶なドラマがウォッチングできる絶好の舞台でもあります。
今回は、近所の道ばたにある身近な「ジャングル」、カラスノエンドウの世界をご紹介します。
■道ばたジャングルの見つけ方
ステップ1:カラスノエンドウを見つける
まずは、もちろん、ターゲット植物のカラスノエンドウを見つけなければなりません。でも、ご心配なく。その気になって探せば、どんな場所でもたいてい見つかります。(ただし、北海道には見られません)
特に見つかりやすいのは、「日当たりがよくて、ちょっと土に湿り気のある空き地」。
たとえば、
・公園や校庭の片隅で、(草刈などの)手入れの行き届かない場所
・水が張られる前の田んぼと、その周辺
・放置された空き地
などが、大きな群落を見つける絶好のポイントです。
これが、カラスノエンドウ。赤紫の花、整然と並んだ小葉、細い巻きひげ状のつる が特徴。
ステップ2:アブラムシの群れを見つける
道ばたジャングルの草食獣にあたるのが、アブラムシの仲間たち。
カラスノエンドウの群落を見つけたら、その中で、アブラムシがいっぱい集まっている場所を探しましょう。
アブラムシがたくさん付いたカラスノエンドウは、(アブラムシがくっついているために)茎が太く、黒っぽく見えます。
そんな場所を見つけたら、さあ、いよいよウォッチング開始!
茎にアブラムシの集団がいるカラスノエンドウ
カラスノエンドウに付くアブラムシ2種
左:緑色のソラマメヒゲナガアブラムシ
右:黒っぽいマメアブラムシ
■テントウムシの意外な素顔
道ばたジャングルで見かける昆虫の代表選手がテントウムシ。
かわいらしい姿に似合わず、彼らの多くは、アブラムシを主食にする獰猛な肉食昆虫です。
幼虫や成虫を見つけたらそっと近寄ってみましょう。食事シーンを観察できるかもしれません。また、成虫や幼虫がいるあたりをよく探せば、蛹や卵も見つかります。
おなじみのナナホシテントウのほかにも、何種類かのテントウムシが見つかるはずなので、じっくり観察してみましょう。
左:アブラムシを食べるナナホシテントウ
右:こちらは、アブラムシをくわえたナナホシテントウの終令幼虫。毎日何十匹も平らげてプリプリ太る。
左:小屋の壁に並ぶナナホシテントウの蛹。エサのアブラムシが不足すると、後輩の幼虫に共食いされてしまうこともある。
右:ナナホシテントウの卵。葉の裏などにまとめて産みつけられる。
これは、どちらもナミテントウ。模様には個体変異があり、まるで別種のように見える。
ナナホシテントウやナミテントウの半分ぐらいの大きさしかないヒメカメノコテントウ。この種類にも、模様にバリエーションがある。
■個性的な肉食獣たち
テントウムシ以外にも、おいしいアブラムシを狙って、いろいろな肉食昆虫が道ばたジャングルにやってきます。
クサカゲロウは、ウスバカゲロウに近い昆虫。
成虫は淡い緑色で透きとおった翅を持ち、とても繊細な雰囲気です。
一方、幼虫は、牙状の大顎を持っていて勇ましい姿をしています。
左:クサカゲロウの一種。
右:こちらは幼虫。ゴミや自分が食べたアブラムシの死骸を背負ってカムフラージュしている。(幼虫本体はゴミのかたまりの右下に見える)
お腹のしましま模様が特徴のヒラタアブもジャングルの常連さん。
一見、ハチのように見えますが、ハエ目に属する昆虫で、針は持っていません。
左:ホソヒラタアブの幼虫。半透明のウジ虫系。 右:同 蛹。まるで水滴(が落ちる瞬間)のような形をしている。色は、蛹の色は黄白色から褐色までいろいろ。
アブラムシの付いたカラスノエンドウを選んで産卵するヒラタアブの一種。また、新たなドラマが始まる。
■まだまだいっぱい、ジャングルの住人たち
だまされたと思って、カラスノエンドウのそばに腰をおろしてみてください。そして、そのまま、10分間‥。
だんだんと目が慣れるにつれて、そして、あなた自身の存在が自然の中に溶け込むにつれて、やがていろいろな虫たちの姿が魔法のように現れます。
左:肩の部分に針状の突起があるハリカメムシ。イネの害虫だが、カラスノエンドウにもよくとまっている。
右:体長5ミリの小さな甲虫、ツマキアオジョウカイモドキ。幼虫は、茎の中に潜入し、ほかの昆虫の幼虫を食べて育つ。
左:肢をひろげてアブやチョウを待ち伏せるハナグモ。
右:湿地に住む小型のキリギリス、ヒメギスの赤ちゃん。
可憐なベニシジミ。幼虫は、カラスノエンドウに混じってはえているギシギシやスイバの葉を食べる。
今回は、カラスノエンドウで見られる昆虫たちをご紹介しました。
今度の散歩の時には、ぜひ、道ばたジャングルを見つけて探検してみてください。
(初出 「むし探検メール No.14」)
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